月の土

植物が育つ土にしたい。主に登山・植物の雑記とイラスト

悪夢日記 其の参

【大きな柱】

天気の良い休日。大型ショッピングセンターの屋外にたくさん人が集まっていた。何か楽しそうなイベントが始まるようだ。細長い机と細長い椅子がセットになって等間隔で並んでいる。家族連れなど各グループごとにテーブルに座っている。そしてテーブル1つにつき一人スタッフがついている。諸々のお世話をしてくれるのだろうか。

 

賑やかなイベントは終了し、スタッフの人がテーブル周りを箒で掃きながら「ありがとうございました。」と言った。イベントが行われていたエリアは、周りをぐるっと木の柵で囲まれている。出入り口は一つしかなく、出口前で退場の行列ができている。日差しも厳しいので早く出たいところだが仕方がない。

そのまま出口に向かってのろのろと進んでいると、「きゃー!!」と女の子の甲高い悲鳴が響いた。何か前の方でごたごたしている。私がいる場所から15人ほど挟んだところだ。頭がつるつるのおじさんが少し列からはみ出たところが見えた。

 

それからすぐに警察がやってきて、頭がつるつるのおじさんは連行された。どうやら女の子を連れ去ろうとしたらしい。目の前の出来事だったので、むしろ信じ難く「怖いなあ〜。」とそのくらいの感想しか持っていなかった。それより暑くて早く外に出たかった。

 

次の瞬間、私はレストランの緑色の椅子に座っていた。エアコンが効いていて涼しい。向かいにはキャップをかぶった若い男が座っている。若い男は先ほどの事件について話し始めた。「いやあ、あのおじさん免許証の偽造が下手だったね。俺ならこんなふうに作る。」と自作の偽造免許証を私に見せつけた。私が見たって本物か偽造かわかるわけがない。だがそのとき直感で、この男は犯罪のプロだとわかった。私は今誘拐されている。出口の列に並んでいたところを引っ張られ、脅されながら、でも男はにこやかに私をここまで連れてきた。怖い。男は話しているとき常ににこにこしている。それが余計に怖い。この男ならさっきの事件を完璧にこなせただろうとそう思わせる話し方とオーラがある。

 

逃げ出したい。逃げ出したい。怖い。男はずっと何かを喋っているが、恐怖で何を言っているのか耳に入らない。私が怖がっていることは男に伝わっているだろうか。とりあえずここから出ようと思った。用事をつけてこのレストランから出る。怖がっているのがバレると、逃げ出すんじゃないかと警戒されてしまう。私は忘れ物を突然思い出したのを装って「あ。あのテーブルに車の鍵と財布置いてきちゃった。取ってくる。」と言って、相手の返事を聞く前に椅子からパッと立ち上がってレストランを出た。

 

全力で走って逃げた。すると途中、イベントで一緒のテーブルだった女の人と女の人の母に会った。私がかなり焦っていたので、二人は私を車に乗せてくれた。早くあそこから遠ざかりたかったので助かった気持ちでいた。だけどあの男ならすぐ追いついてくる気がする。どこに逃げても見つけられてしまう気がしてたまらない。

 

突然たまらなく怖くなって、木造で瓦屋根のうどん屋さんで止めてもらった。車から飛び出し、うどん屋さんに駆け込んで奥の大きな柱の隅でブルブル震えた。店の人は私が入ってきたことに気づいているかなんてどうでもいい。誰にも気づかれたくない。息を潜めてできるだけ小さく体を丸くした。ふと、もたれている大きな柱に縦長で黄土色のステッカーが貼っているのに気がついた。大きく黒い文字でこう書かれている。「20××年 誘拐犯を取り押さえた店 表彰」。その文字の隅に小さく書かれていた言葉を見て息が止まった。「この柱で捕まえました! 」。赤い矢印の先は、私が今座っている場所を指していた。